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「崖の上のポニョ」を観た

いろんなところでいろんな感想が述べられている宮崎駿監督の最新作「崖の上のポニョ」ですが、観に行ったのでその感想を書きましょう。


とりあえず結論から書けば、「なかなか面白かった」です。監督がインタビューで語ってるように「5歳くらいの子供向けに作った」という目標は達成されておりました。劇場内の小さな子供たちは騒ぐこともなく真剣に観てた様子。その点では満点です。

で、小さなお友達には最適なこの作品ですが、大きなお友達にとってはどうか。オレとしては○。純粋にアニメーションを楽しむ作品としてはオッケーです。ストーリーを追っかけててはいけません。その点を注意すれば楽しめます。

結果、4ブラボーの70点。かなりの高得点。ただし、心にしみるとか、心に残るとかいう感情はなし。とにかく楽しめ。

以下、ネタバレも有り。

映画評論家の町山智浩氏がラジオ出演時などに「この作品のダメさ加減」として語ってたものうち、「所ジョージがヘタ」というのと「親を呼び捨てにするのは如何なものか」というのはその通りであると認めますが、その他の「ポニョが人間になるための試練が足りない」とか「中盤にクライマックスが来て、その後何もナシ。作品のテーマってなんだ?」とか「水道水が入ったバケツに海で捕まえたポニョを入れると死ぬ」とか「リサの乱暴な運転はイカン」とかは的外れ。ハヤオ氏はそんなことは気にせず映画を作っているはず。気づいてても無視。そんなことはほんの些細なことであると思っているんでしょう。

それからこの作品が「これまでの宮崎アニメと比較して最低だぁ」などと書いているブログもありましたが、そういった人たちはどんな宮崎アニメを期待しているんでしょう。説教くさい「千と千尋の神隠し」や意味不明な「ハウルの動く城」は認めて「ポニョ」は認めないと言うのもよくわからない。意味不明なストーリー展開や何を語りたいんだかよくわからないのは最近の宮崎作品での共通項ではないでしょうか。「それを今更改めて言わなくってもねぇ」なんて思ってしまいますね。「晩年の黒澤明作品を観るようだ」という感想もあったけど、それは正しいかもしれない。宮崎監督自身がインタビューで「アニメーションとしての表現方法にも行き着いた感がある。なので、今回は鉛筆で書いた手書きにこだわった」と語っているように、若い頃作った作品にある観客を引き込むような「ストーリー」展開よりも、単純に「絵を動かす事」を中心に作ったのがこの作品、であれば「ストーリーに波がない」とか「つじつまが合わない」とか「よくわからない」とかいう事もまあある意味しょうがないこことと考えるべきです。宮崎監督の頭の中にある妄想をそのまま鉛筆で書いてそれを映画にしてしまった、というのがこの作品。そういうことでしょう。そんなものをいろんな手段を使って商業化してしまった鈴木プロデューサーの手腕を褒め称えるべきかもしれないですな。(特にテーマ曲はね。これってタイホされた某教祖の”ショーコー、ショーコー”というマーチ以来の無意識に口ずさんでしまうチョーシの良い曲であることは間違いない。映画館からの帰りの電車内でも、この作品を観たとおぼしき小さな子供たちがそこここで「ポ~ニョポニョポニョ」と歌ってた影響力は凄い。オレも気がつくとポニョポニョ歌ってる自分に気づいて驚くことあり)

で、その「アニメーション」なんですが、スクリーン上の登場人物らとは全く関係のない細かいところまでちょろちょろと動いてるのがオモシロイ。CGは使ってないと言ってるけど、オープニングの場面で、海中を漂う細かいプランクトンその他の生き物たちは全て手書きかな。手間かかりすぎではないか。こんな事やってるから動画17万枚なのか、とかおもいながら観てました。

映画中盤の大津波のシーンやその中を走り抜けるリサの軽自動車、それを追っかけて波(っていうか、巨大なさかな?)の上を走り回るポニョの描写など、「さすが宮崎御大、すばらしい動き!」とシビレてしまいました。オレ個人としては、あの動きを観れただけでもありがたい。このシーンの前に町を台風が襲う場面の表現も、大雨が降っている感じとか、停電の建物内で動き回る人々とか、風に吹き飛ばされそうになりながら歩く宗介の感じとかも良かったし、施設から自宅へ帰るリサが運転する車内にいる宗介のアップからカメラが車外に飛び出しつつぐるーっと車の前に回り込み、その後車上空の引きの画になる一連の動きにはしびれましたね。ザーザーと降りかかってくる雨粒や波しぶきがあって、その中を車がきちんとドリフトするし。リサの運転する車の動きはカリオストロの城の初っぱなでクラリスを追っかけて山道を走り抜けるシーンを思い出させます。(このシーンは予告編内で見ることができます)ここらへんは前半のクライマックス(というのかな)ですね。その後、人間になったポニョが初めて人間の生活にふれて、いろんなものに驚くシーンが続くわけですが、ここって「アルプスの少女 ハイジ」でハイジが山の生活で体験するいろんな初めてな出来事に対して示す驚きや「となりのトトロ」で引っ越し直後のメイちゃんが初めて観るものに対して示す興味津々な態度に通じるものがあります。こういう表現は宮崎駿の得意技。

で、中盤からは宗介と人間になったポニョがリサを探しに行く話になるわけですが、このシークエンスって多くの人が指摘しているように「パンダコパンダ 雨降りサーカス」ですな。物語としては子供二人で母親を探しに行くという「試練」の場面となるわけですが、あまり試練でもなし。途中、ろうそくがなくなってしまうところと眠たいポニョを引っ張って暗いトンネルを通り抜ける事、それから追ってを振り切るためにポニョを守って手すりの上をナナメって走り抜け、トキさんに向かって飛び込むくらい。自分の大事な何かを引き替えにしなければならない と言うような試練ではありません(多少あるけど)。また、ラストの宗介に対する問いかけも「課題」というにはあまりにも甘い。これまで不思議なチカラや姿を見せてきたポニョをフツーに受け入れてきた宗介や周りの人たちには何ら障害にならない課題で、なんの試練にもならない。「そこがイカン!」と怒る人がいるのもわかる気がするんですが、この映画は始めっから終わりまで「おとぎ話」だからそれでも良いんですね。(初めてポニョが自分ちに来たとき、宗介が「あの子はポニョだよ」と言っても別に気にした風もなく「ポニョってきれいな赤毛ね」くらいの感想しか述べないリサ)時代設定などは現代っぽくて、日本が舞台なのはわかるけど、突然目の前にポニョが現れても誰も驚かない。フツーはあんなモンが目の前に現れると大騒ぎになるよ。洪水であふれた水の中には古代魚が泳ぎ回ってるけどそれを見ても誰も騒がない、それらが全くないのはこの映画自体、すべて「おとぎ話」だからでしょう。たまたま舞台設定が最近の日本っぽいだけで、今我々がすんでるのと全く別の世界での出来事。いきなりパンダの親子が一人っきりで住んでる小さな女の子の家の居候になって、実はその家から動物園に電車に乗って通勤したりしても誰もそれほど驚かない世界である「パンダコパンダ」と同じ。それだから「水道水にポニョを入れて大丈夫か」とかいう現実的な問題はすぐに問題なしとわかるので解決済み。そう思ってみると映画タイトルとエンディングのバックが「絵本」っぽいのは「この映画はおとぎ話なんだよぅ」という表現だったのかもね。(まあ、誰もこの話を現実の事とは思わないだろうけど)洪水後に町の人たちがみんな船で山の上ホテルに避難している場面でも、宗介とポニョ二人がボートに乗ってても誰もそれほど心配しない。「リサさんにあったらよろしく」などとのんびりした会話をしている。避難ボード(漁船)群には大漁旗が沢山掲げてあってなんだか楽しそうだし、避難を統率している人(消防団員?警察関係?)も、大まじめなとこがちょっとオモシロイ方向にぶれてて、ここいらへんは「紅の豚」っぽい印象。とてもイイ感じです。

全体的に大人がまじめに「映画のテーマは?監督の主張は?」などと身構えて観る映画ではありません。あまり理屈を捏ねてみる映画でもありません。「となりトトロ」のように「懐かしーなー」と言うような舞台設定でもありません。スクリーン上で画が動くのを単純に楽しむべき映画ですので、その点には注意が必要。「おとぎ話といっても、やっぱり教訓とか教えられるべき内容があった方が良いのでは」という事を主張される御仁もいらっしゃるでしょうが、絵本などを読むと大人としてはよく意味が理解できないような不条理な物語も沢山あります。それを子供たちは喜んで読んでるんだから、まあそういうモンなんでしょうね。(どんなもんなんだろうか、オレも具体的には説明できないけど、まっ、そんな感じですか)

ついでに、宗介の母親リサが乗る軽自動車(車種は特定出来なけど、右ハンドルの国産軽自動車っぽいフォルム)はマニュアルミッション。(ドックを通り抜けるシーンで、急発進時にクラッチをつないでるっぽい場面あり。もしかするとオートマでブレーキを左足で踏んでて、そいつを急に離したのかも)デザイン的にはホンダっぽい。黄色いナンバープレートには「333」とあり、カリオストロでルパンが乗ってたフィアットのナンバー「R-33」にも通じる気もしたりして。

それから、チキンラーメンとおぼしきインスタントラーメンが出てきたり、アンテナから電波がビビビと出てる様子が表現されたり、水平線の位置が通常のイメージより異常に上に描かれてて少しヘンな感じだったり、宗介のぽんぽん蒸気船のおもちゃが懐かしかったり、ポニョの魔法が解けた後宗介の帽子と双眼鏡が一緒に小さくなるのはなぜだぁ、などと見る人によっていろんなところで引っかかるんじゃないかと思えるのも、宮崎監督の作戦なのかそれともあまり気にしてないだけなのか、少し気になるところ。

Miyazaki_ponyo_kuru


この絵はNHKのドキュメント番組内で宮崎監督がイメージボード作成時に描いてた場面が出てきたものだと思うのですが、もしかしてこの場面を表現したいが為だけにこの映画を作ったんだったりしてね。

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